どんな記事
「記録をつけずに何の管理もせずに、10年間勝ち続けています」
・・・あたりまえですが、こんなこと ありえない ですし、このことに異論がある方は少ないと思います。
では、次の質問はどうでしょう。
あなたは、、、
- 1年前、資金がいくらあったか答えられますか?
- 1年前、どんなトレードをしていたか答えられますか?
- 1トレードや全体のリスクを把握・調整できていますか?
- 破産せずに複利を活かす資金管理はできていますか?
- 着実にレベルアップしていますか?
もし「Yes」と答えられなかったとしたら、〝マグレ〟で勝つことはあっても、トレードで勝ち続けることはおそらくできません。
この記事では、
- 効率よく記録をつけ
- リスクと資金を徹底的に管理し
- 着実にレベルアップしていく素地をつくる
- それが、ひとつのエクセル・Googleシートで実践できる
そんな方法を、ご紹介します。
投資歴7年の兼業投資家が、改良に改良を重ねてたどり着いた オールインワンのエクセルシート(Googleシート) を、〝徹底的に〟解説します!
Twitterでも紹介していただいています
追記
2019年5月4日
読みやすく調整したり、内容をアップデートしたりしました。
2020年3月1日
最新の運用管理シートに差し替えました。それに伴い、記事のアップデートも行いました。
記録をつけるメリット・デメリット
「記録なんてつける必要ない」っていう人は少ないと思いますが、正直、記録をつけるのってメンドクサイ ですよね。。。筆者もできることならやりたくないです。
しかし残念なことに、「記録」は投資においてめちゃくちゃ重要です。なので、渋々。しかたなく、トレードの記録をつけています。
記録をつけることに、どんなメリット・デメリットがあるのかを、まずは整理してみましょう。
勝ち続けることができる
記録をつけることには、次のようなメリットがあります。
- 複数の口座や市場を一元管理できる
- リスクの把握・調整が容易にできる
- 複利を活かした資金管理ができる
- 成績や分析などを自動算出
- トレードにあてる時間を短縮
- ルールを遵守しやすくなる
- ミスが減り正確になる
- 迷わなくなる
筆者は、複数の口座や市場を少ない工数で一元管理しています。
資金とリスクの管理はとにかく徹底していますし、色々な数値が即座に自動算出されます。トレードにあてる時間は 1日 5分~30分程度。迷わず正確にルールを徹底することができています。
「記録」「リスクの調整」「資金管理」は、〝勝ち続けるために最も重要なこと〟 であると考えています。
リスクの調整と資金管理を徹底できる
8つのメリットをあげましたが、その中でも 「リスクの調整」と「資金管理」はとくに重要 です。ここでは、リスクと資金について「どんな管理をしているのか」をご紹介します。
資金管理
トレードのリスクとサイジング
- 1回のトレードでとるリスクを資金の何%にするか
- 「トレードのリスク」と「1日の値幅」から取引量を算出する
複利の調整
- 年ごとの複利、四半期ごとの複利、月ごとの複利、トレードごとの複利等がある
- 運用資金を増やすタイミングで調整する
- 利益を運用資金に加算するタイミング
- 運用資金の追加(入金)を反映するタイミング
これらはいずれも重要です。
この点については過去に解説していますので、興味がある方は、以下の記事を読んでみてください。
リスク管理
- トレードの取引量
- トレードのロスカット幅
- 取引量の制限
- 全体
- 買いポジション全体
- 売りポジション全体
- 似た値動きをする銘柄全体
リスクは決して悪いものではありません。
リスクとリターンは表裏一体です。リスクをとりすぎれば破産の確率が一気に上昇しますが、リスクをとらなければリターンは増えません。 以下の図ようにリスクは「適度」でなければならないのです。
Twitterを見ていて思う筆者の勝手なイメージですが、FXの人はリスクを取りすぎる、株式投資の方はリスクが少なすぎる傾向があるように思います。
デメリット
もちろんメリットばかりではなく、デメリットもあります。
- 工数が増える & 時間がかかる
- 計算式の間違いに気づかずに継続的なミスが起こる
- ルールを盲信しすぎると進歩しなくなる
パッと思いつくのは、こんなところでしょうか。
仕組みさえ作ってしまえば「1」は問題ありません。
筆者自身、日足で 10~15銘柄の分散投資をしていますが(2018年現在)、実際の作業時間は 1日 5分~30分程度です。本業への悪影響も、まったくありません。
実は 「2」のデメリットが最も危険 で、「3」は人によります。
エクセルや Googleシートなどの表計算は、計算式を間違えてしまっても 〝一見すると正しいけど間違い〟 というケースが良くあるので注意が必要です。
リスクの調整と資金管理はなぜ必要か?
さて、これだけメリットを提示されて、ただそれを鵜呑みにするような方は少ないと思います。疑いの目を持つことはとても良いことですが、納得していないままこの先の話をしても意味がありません。
ここでは、簡単な検証を行うことで「記録や資金管理が、"勝ち続けること" に直結する」ということを(ほんのり)証明してみようと思います。
検証①: 良い管理
簡単なモデルケースをつくって資金管理の検証をしてみました。まずは「良い資金管理」の確認です。
スタート資金 | 100万円 |
勝率 | 50% |
リスクリワード | 1.2倍 |
資金管理 | 定率 2% |
リスクリワード(以下「RR」)1.2倍というのは、利益が損失の1.2倍ということです。勝率が50%でRRが1.2倍なので、普通に勝てる手法です。
定率の2% というのは、エントリーする時の資金に対して2% のリスクでトレードをしていくことです。定率は、トレードごとの複利運用とも言えます。
結果は次のようになりました。
※ googleシートのランダム関数を使用。トレード回数は995回
画像は検証を10回繰り返したものですが、いずれもコンスタントに勝っていることが分かります。勝率50%でRR1.2倍という一見大したことのない手法であっても、「リスクの調整」と「資金管理」がしっかりしていれば、このように勝ち続けることができます。
検証②: ダメな管理
「良くないリスクの調整・資金管理」は次のようなパターンが多いように思います。
- そもそも、資金やリスクの管理をしていない
- 価格が「__%」下がったら損切り(株式投資)
- 証拠金の「__分の1」逆方向にいったら損切り(FX等)
「そもそも管理していない」は(申し訳ないですが)論外です。
そういう方は、今すぐにでも管理をはじめることをオススメします。
そして、価格の「__%」や証拠金の「__分の1」といった管理は、やらないよりは良いのですが、おそらく〝不十分〟です。リスクは値幅からもたらされるものです。つまり、リスクの測り方が違います。
少し話題がズレますが、必要なので、以下でちょっとだけ解説します。
リスクは値幅によってもたらされる
例えば、下の図のように現在の株価が 2,000円の株と 1,100円の株があるとして、どちらも 1日の平均的な値幅が 100円だとします。
「価格の __%」(図では10%)で管理しようとるすると2つの銘柄のリスクは200円と110円と判断することになります。
しかし、実際の損益は価格ではなく値幅によってもたらされるので、この2つの銘柄のリスクはあくまでも 1日 100円でしかありません。ここで問題なのは、「__%」による「200円」「110円」という測り方では本来のリスクである「値幅 100円」に対してズレが生じているということです。
- 新興株などの「安い株価で値幅の大きいもの」
- 大型株で「高い割に値幅の小さいもの」
例をあげればキリがないですが「株価の__%」「証拠金の__%」といった資金管理は正確ではありません。そういう管理をして、リスクのとり方がチグハグになってしまうケースが非常に多い と考えています。
リスクのとり方がチグハグだと破産のリスクが高まる
スタート資金 | 100万円 |
勝率 | 50% |
リスクリワード | 1.2倍 |
資金管理 | 定率 1%~20% |
勝率とRRは「良い管理」と同じく勝てる手法ですが、資金管理を 「運用資金の 1%~20%」 としてみました。この範囲でランダムにリスクを取ります。つまりこれは、「リスクのとり方がチグハグの場合はどうなるのか?」 という検証です。
いかがでしょうか。
感じ方は人それぞれだと思いますが、長期的に安定した利益をあげた「定率2%」に対して「チグハグ」は非常に不安定です。
今回の検証したのは、運用資金を100万円として、1回のトレードに1~20万円を相場観で振り分けるようなトレードです。100万円の内の20万円なら、「絶好のチャンスだ!」という場面でチャレンジできると思います。
しかし、検証結果が示しているように、そういうロジックは非常に不安定な結果を生んでしまいます。
人間の頭脳は非常に優秀です。
「トレードのタイミングやチャートの判断に〝裁量〟が入ること」を筆者はまったく否定しません。しかし、リスクの調整や資金管理については決めた数値で機械的に行うべき だとと考えています。そうすることで、優秀な頭脳を活かしてトレードに集中できる環境を整えることができます。
- 何をもってチャンスと判断するのか
- どれくらい取引量を増やすのか
チャンスで大きめにベットするなら、このあたりのルールを明確にすることも必要だと思います。
検証③~⑤: その他の資金管理
ついでにマーチンゲールや逆マーチン、定率2%の進化系(タートルズのロジック)の検証も行ってみました。
検証③: マーチンゲール
言わずと知れたギャンブルの必勝法です(実際には大敗する)。ギャンブル界隈では資金管理を「ベッティングシステム」というようです(カッコイイですね)。
マーチンゲール
最も古典的かつ有名な手法で、カジノ必勝法として永らく愛されてきた。倍賭け法とも言われる。
まず 1単位賭け、負ければその倍の 2単位、さらに負ければそのさらに倍の 4単位、と賭けていき、一度でも勝てばただちに 1単位に戻す、という手法である。試行回数に関係なく、勝った時には 1単位を得ることになる。
多くの場合には少額の勝ちであるが、負ける時は大敗する。負けが連続するとたちまちパンク、もしくはテーブルリミットと呼ばれる賭けの上限に達してしまう。
引用元: Wikipedia:ベッティングシステム
検証すると以下のような結果になりました。
惨敗です。
検証④:逆マーチン(パーレー)
「マーチンがダメならその逆をやればいいんじゃないの」という発想で生み出されたのが(?)、パーレーというベッティングシステムです。
パーレー
逆マーチンゲールとも呼ばれ、その名の通りマーチンゲールの反対の手法をとる。
すなわち、1単位賭けた後、勝てばその倍の2単位、さらに勝てばその倍の4単位、負ければ1単位に戻す、という手法である。もちろん、勝ち続けても1回でも負ければ損となるため、どこかで1単位に戻して獲得金をしっかりと自分のものにする。分散はマーチンゲールの鏡対照となる。
稀に大勝するが、多くは小敗してしまうスタイルである。
引用元: Wikipedia:ベッティングシステム
作成してみてわかったことですが、6連勝した時点で掛け金が資金 100% を超えてしいます。それ以降、負けてしまうと当然破産してしまいます。そもそも資金 100%以上の掛け金をどう捻出するのでしょうか。非現実的ですね。そこで、掛け金が資金の 100% を超えるのを検知したら 2% に戻るように設定してみました。勝ち逃げです。
以下は改良後の結果です。
マーチンと同様、散々な結果になってしまいました。
検証⑤:定率2%の進化系
最後に「筆者が実戦で使っている資金管理」の検証も行ってみました。これはタートルズという投資集団が実際に使っていたロジックです。複利の対策とドローダウンを軽減するスキームを取り入れています。
これでもかと言うくらい検証を繰り返してきた資金管理なので不安はありませんでしたが、やはり安定しています。小さいグラフなので細かいところまで見ることができませんが、ドローダウンも軽減されているはずです。
2019年5月4日 追記
複利への理解が深まったため、最近は、完全複利(完全定率、ドローダウンの軽減なし)の運用に切り替えました。興味のある方は、以下の記事をお読みいただくと良いかもしれません。
使用しているツール
さて、つらつらと記録をつける必要性を書きましたが、別にむずかしいツールを使っているわけではありません。この記事のタイトルの通り、エクセルやGoogleシートで実現できます。誰でも知っているツールです。
オススメ! Googleシート
エクセルも便利ですが、Googleシートにしかできないこともたくさんあります(すごいぞ、Google!)。
Googleにしかできないこと
=googlefinance()
で数分ディレイの価格データを取得=filter()
という便利な関数- ファイルを持ち運ぶ必要がない
- Google のサービス(メール、カレンダー等)との連携が便利
- Web上のデータを簡単に拾うことができる
- 何より無料!
エクセルでも代用できる
とは言え、もちろんエクセルでも代用できます。
上に書いた技術的なことはエクセルでも実現できますし、大量の関数を使った計算もエクセルの方が早かったりします。要は〝使い所〟なので、やりたいことや環境に合ったもの使うのが良いかなと思います。
いずれにしても、特定のツールよりも自由の効く表計算ソフトがオススメです(利便性よりも自由度!)。
入力シートの分け方とそれぞれの役割
ここからは具体的な How to です。
まずは全体像をイメージしてもらって、その後で、細かな入力項目の解説をしていこうと思います。
- リスクの調整と資金管理にどんな計算表が必要なのか
- 入力シートの分け方とそれぞれの役割
などについて、ご紹介していきます。
シート「資金の推移」
- 日々の残高を、定点で記録していく
- 資金の推移についての分析が自動で行われる(月、四半期、年の損益やドローダウン等)
リスクの調整や資金管理は、「運用資金がいくらあるのか」 の上に成り立っています。
つまり、運用資金の変化が分からなければ「調整」も「管理」も正確に行うことができません。お金が「増えた」「減った」も大切ですが、残高を把握してリスクを的確に調整し複利を活かしていくことが非常に重要です。
シート「銘柄とリスクの管理」
- 銘柄ごとの情報が網羅されるシート
- 銘柄の1日の変動幅をもとに取引量が算出される(ひとつの銘柄の1エントリーは、1日あたり運用資金の1%のリスク)
- あらゆる市場・銘柄の管理ができる
- リスクを把握
- 全体
- 買いポジション
- 売りポジション
- 銘柄ごと
エントリーのサイズの決定や、全体のリスクの調節など、最終的な投資判断はこのシートをもとに行います。
シート「トレードの記録」
- トレードの記録
- ロスカット価格の算出
- ピラミッティング(増し玉)価格の算出
- トレードの根拠の記録(テキストメモ)
- トレードに関する分析
このシートであらゆるトレードの記録を行います。
市場や取引会社ごとにトレード記録を分けていくと、その数が多いほど集計が困難になります。異なる市場でも銘柄が違っても記録するべきことに差はありませんので、トレードの記録はひとつのシートで行うことをオススメします。
シート「資金の管理と分析」
以下がすべて自動算出されます
運用上のアカウントの調整
- 取引量の根拠になる金額を算出する
- 利益を資金に加算するタイミングの調整
- 資金の追加(入金)を反映するタイミングの調整
トレードの集計
- 全体の成績を集計
- 年、四半期、月ごとの成績を集計
- 銘柄ごとの成績を集計
このシートは、めちゃくちゃ大事です。
なぜなら、ここで算出される「取引量の根拠になる金額」によって、「単利か複利か(定額・定率)」や「 1トレードのリスク(%)」が決まるから です。
ここで算出された数字は、すべての運用に影響を与えます。このあたりの計算はすべて関数で組めるので「仕組み化」してあります。自動化してリスクのブレをなくすことはかなり効果的です。
シート「グラフ」
- 資金の推移
- DD(ドローダウン)の推移
- 取引日の分布
- トレードの分布
推移や分布などはグラフの方が分かりやすいので、いつでも見れるようにしておきます。グラフで確認することで思わぬミスを発見しやすくなるというメリットもあります。
分布については、「プラスの『取引日』『トレード』がどれくらいの割合であるのか」を確認することができます。
補足:トレードを分布で捉える
ちょっと専門的になるので、興味のある方だけお読みください。
確率を勉強してみて分かってきたことですが、「トレードを分布で捉えること」は非常に重要 だと考えています。
シート「グラフ」の「取引日の分布」や「トレードの分布」が、まさにそれにあたります。これらの分布が思った通りの形になることが、運用成績を自由自在に操る第一歩 だと思います。それは、取引日やトレードの分布はルール通りにトレードできていれば一定の形になるからです。
一定期間のトレードで出来上がった分布を確認しルールを調整する。このトライアンドエラーを重ねてトレードルールは進歩してものだと考えています。
入力・分析項目の解説
ここで解説する「リスクの調整」や「資金管理」には、タートルズ(Turtle Traders)の「ユニット」という概念を使います。まずは「ユニット」の解説をし、その後、各項目の解説をしていきます。
前提知識:ユニット
タートルズの一員であったカーティス・フェイスの著書「タートル流投資の魔術」の抜粋とともに、「ユニット」の解説をしていきます。以下はその著書について書いた記事です。ご参考まで。
ユニットとは
まずは「タートル流投資の魔術」の 1文をご紹介します。
わたしたちは自分たちのポジションをユニットと呼ばれる塊で取る。各ユニットの大きさは、取引枚数が 1‐ATRの価格変動で口座残高の 1パーセントになるよう設定されていた。100万ドルの取引口座なら 1万ドルだ。そこで、特定の市場で値幅 1‐ATRが示す金額を見て、1万ドルをそれで割れば、リッチ(リチャード・デニス)がわたしたちに割り当ててくれた取引資金 100万ドルごとに取引できる枚数が出る。この数字を、わたしたちはユニット・サイズと呼ぶ。不安定な市場、もしくは高額の契約の市場は、定額の契約の市場、もしくは安定度の高い市場より、ユニットは小さくなる。
この中で 重要なのは「ユニット・サイズ」 です。
ユニット・サイズとは
- 値幅 1-ATR
- 口座残高の 1%
つまり 1ユニットは運用資金の1%のリスクをとっている ということであり、取引する銘柄の 1―ATR、つまり、1日の値幅に合わせている ということです。むずかしく考えず、これだけ分かっていれば問題ありません。
ユニットを実現する方法
では、そのユニットをどのように実現しているのでしょうか。
変動性:Nの意味
(中略)
Nとは単純に、真の値幅の20日指数移動平均のことで現在ではATRと呼ぶほうが一般的だ。金額ベースのリスク調整
ポジション・サイズを決める最初の一歩は、対象市場の価格変動(そのNによって定義される)による金額変動を確定することだ。
金額変動=N✕1ポイントの金額リスク調整されたポジション・ユニット
タートルたちは、ユニットと呼ばれる細かい単位でポジションを作った。ユニットの大きさは、1Nが講座持ち分の1パーセントに相当する値になるようにした。つまり、ひとつの市場あるいは商品のユニット・サイズは下の公式を使って計算できる。
ユニット・サイズ=アカウントの1%/市場の金額変動
または
ユニット・サイズ=アカウントの1%/N✕1ポイントの金額引用元: 伝説の投資集団 タートル流投資の魔術
長いですが重要なポイントはひとつです。
「ユニット・サイズ=1-ATRの価格変動=口座残高の1%」を実現するための計算式
この計算ができれば、どんな市場・銘柄でもレバレッジがあってもなくても、すべて同じロジックで資金とリスクの管理を行うことができる ようになります。
資金の推移
「残高」「入出金」の記録
残高は「ユニット」(取引量)の根拠になります。筆者は未決済の損益を含めた「純資産残高」で算出していきますが、未決済の損益を含めない現金残高で管理する人もいます。
純資産残高(Balance)
「未決済のポジションの損益を含めた残高」を指す。取引ツールによって「純資産」「有効証拠金額」「時価評価総額」など表記が異なるケースがある。
追加資金(Deposit)
「トレード用資金の追加」のこと。一定の運用資金を決めてトレードをしていても、途中で資金の追加をすることはある。そのときに入力するのが「追加資金」。つまり「追加資金≒入金」。
資金削減(Withdrawal)
「追加資金≒入金」であるのに対して「資金削減≒出金」である。トレード用資金を出金する場合に入力する。
現金合計(Cash Total)
未決済の損益を含まない、現金としての残高も記録しておく。
「ユニット(リスク)」を記録
このシートにおいて「リスク」と「ユニット」は同じ数量になります。「ユニット・サイズ = 1-ATR の価格変動 = 口座残高の1%」ですから、例えば、5ユニットは資金の5%分のリスクをとっているということを表します。
また、「口座残高の1%」としていますが、資金管理には「アカウントの調整」という概念があり必ずしもその時の口座残高の1%とは限りません。例えば、タートルズは以下のように行っていました。
アカウントの調整
タートルたちは、最初の持ち分にもとづいて残高が動く普通のアカウントでは取引しなかった。わたしたちは、最初の持ち分がゼロで、特定のアカウント・サイズをともなうアカウントをあたえられた。
(中略)
タートルたちは、元のアカウントを 10% 失うごとに、アカウントのサイズを 20% 減らすように指示された。したがって、それまで 100万ドルのアカウントで取引していたタートルズが 10%、つまり 10万ドル失えば、年間の最初の持ち分に達するまでは 80万ドルのアカウントで取引を始める。引用元: 伝説の投資集団 タートル流投資の魔術
つまり、損失が発生すると「1ユニットのサイズ」は「口座残高の 1%」ではなくなります。この点を正確にさかのぼれるように以下の項目も記録しています。
1ユニットの価値(Unit value, Unit %)
アカウント調整後の「 1ユニットの価値」。
合計リスク(total risk)
アカウント調整を含めた「合計リスク」。つまり、合計ユニット。
実質リスク(true risk)
アカウント調整をしていない、その日の口座残高で算出した場合の「合計リスク」。
一定期間の分析
資金の推移に関する分析もあわせて行っています。一定期間とは、「月」「四半期」「年」を指しています。
累計損益(P/L Total)
最大残高(Maximum)
DD(Draw Down)
最大残高からの資金の目減り。
DD%
最大残高に対する、ドローダウンの割合。
DD日
ドローダウン期間を、日数で算出。
「DD%」は前述の アカウントの調整に関わる ので、この中でもっとも重要だと言えます。
「月」「四半期」「年」の集計は「どの期間での複利運用とするか」に関わります。詳しくは後述しますが、「この期間内ならマイナスを出さずに運用していくことができる」という期間 で複利運用を行うのが基本です。
銘柄とリスクの管理
取引単位(Lot)
その銘柄の取引単位。FXなら「1000通貨」、株なら「100株」、東京の金なら 1g に対して「1000g」など。その銘柄の最小取引量。
ATR
その銘柄の "平均的な値幅" を表すテクニカル指標。20日を使う。
ユニットサイズ(Unit Size)
取引量を算出。ユニットサイズ = アカウントの 1% / N ✕ 1ポイントの金額。銘柄によって為替の換算も行う必要がある。
ステータス(Status)
タートルズは、同一銘柄で最大 4ユニットまで取引する。1ユニット目を「1u」、以降を「2u」「3u」「full」と表記している。シート「トレード記録」から取得する。
取引日数(Num. Days)
1ユニット目をエントリーしてから何営業日経過したかが表示される。日本の営業日でカウントしているため銘柄によってズレる可能性がある。
ポジ(Pos.)
その銘柄の取引中の合計ポジション。
リスク(Risk)
合計ポジションがユニットで表すと「何ユニット分であるか」を算出。
決済SO(Exit SO)
決済の Stop Order(逆指値注文)をセットする価格。つまり「損切り」や「ロスカット」のこと。
増し玉SO(Pyram. SO)
次のエントリー、つまり「増し玉」(Pyramiding)の逆指値の注文価格。
トレードの記録
ユニットの数値は日々変動しますが、トレードの分析において非常に重要なものでもあります。ユニットに関する数値を記録しておくと、後のトレードの分析で大変役立ちます。
ユニットサイズ(Unit Size)
本来のユニットサイズを記録。何らかの理由で、本来のユニットサイズでエントリーすることができないとき、リスクを正確に把握するのに役立つ。
リスク %(Risk %)
そのエントリーが日に何%のリスクをとっているのかを算出。
エントリーのリスク(%/日)= エントリーした取引量 / 本来のユニットサイズ
ユニット価値(Unit Value)
ユニットの価値(金額)を取得。
ATR比
記録したエントリー時のATRと比較して、何倍の損益だったのかを算出。ATRで平準化することで、損益を「銘柄」「取引量の大小」に関わらず、並列で同じように分析することができる。
ユニット比
「ATR比」と似ていますが、「ユニット比」は、ユニットの価値(金額)を基準に比較する。
前提知識:複利の期間について
2019年5月4日 追記
複利への理解が深まったため、最近は完全複利(完全定率)の運用に切り替えました。興味のある方は、以下の記事をお読みいただくとお役に立つかもしれません。
複利の威力を享受し、複利の罠をかいくぐる
さて、とんでもない複利の威力を享受しながら巧妙な罠をかいくぐるには、「複利の期間」を上手く設定する必要があります。それはつまり、「月ごと」「四半期ごと」「年ごと」の複利とすることを意味しています。
「複利の罠」は、複利運用をする間にマイナスが発生すると起こります。
ということは、マイナスが出ない期間で複利運用すれば罠にかかることはありません。つまり、「この区切りならマイナスを出さずに運用していくことができる」という期間で複利運用を行うということです。その調整に必要なのが次の項目です。
- 利益を、資金に加算するタイミング
- 資金の追加(入金)を、反映するタイミング
例:ボーナスがでたから資金を追加する等
ポイントは運用資金を「増やす」という行為です。
トレードの度に、得た利益を加算してしまうと、それは「トレードごとの複利」になってしまいます。トレードでマイナスを出さないことは不可能 ですから、複利の巧妙な罠の餌食 になってしまうわけです。
また、資金を入金するタイミングにも注意が必要です。何も気にせずに、どんどん追加して大きく取引すると、たった 1回のマイナスで、それまでの利益を消化してしまう可能性がある からです。例えば、「四半期ごとの複利」と決めるのなら、「利益を加算」「資金の追加」は四半期に1度だけにすることをオススメします。
複利の期間はどのように決めるのか?
例として「月」「四半期」「年」の複利をあげましたが、その期間は、どのように決めれば良いのでしょうか?
ポイントはやはり「トータルでマイナスを出さずに運用していける期間」です。そして、それはトレードの頻度に左右されます。トレード回数が少ないと、統計的な手法で結果をコントロールすることができないからです。
単なる筆者の肌感覚ですが、あまりピンとこない方は、以下を参考にすると良いかも知れません。
月ごとの複利 | 1時間足未満 |
四半期の複利 | 日足未満、1時間足以上 |
年ごとの複利 | 日足 |
ちなみに筆者は、2018年は「4時間足の四半期複利」、2021年現在は「日足かつトレードごとの複利」で運用しています。
資金の管理と分析
資金管理
投資において、「投資金を決めること」と「適切な複利の運用を行うこと」は何よりも重要です。どんなに良いトレードをしていても、この資金管理ができていなければ効果が激減し、ときには大きな損失につながることもあります。
スタート資金
年初の資金を「スタート資金」としている。
目標資金
筆者の目標は年利30%。「スタート資金 ✕ 1.3」が算出される。
ユニット用 総資産(Unit Resource)
入出金を反映するタイミングや、単利か複利か、複利ならその期間、DD(損失)の反映などの調整を行ったアカウント(金額)を算出。
ユニットの価値(Unit Value)
「ユニット用 総資産」のN%を算出。
分析
自分のトレードの良し悪しを正確に測るには統計が必要です。目指すべき数値を適切に再現できているかどうかをいつでも確認できる環境をこのシートで整えています。
Daily と Trade
一般的なトレードごとの分析と、切り口を変えた日ごとの分析を行う。日ごとの勝率やリスクリワード、破産の確率等も算出し確認する。
期待値
統計から求める「1トレードの見込み利益」のこと。
\text{期待値} = \text{勝率} \times \text{平均利益} - ( 1 - \text{勝率} ) \times \text{平均損失}
破産の確率
破産する確率を表す。
運用管理シートの使い方
長い記事になっていますが、いよいよ最後です。運用管理シートの使用方法についてご紹介します。
毎日やること(5分)
いざトレードの管理をするとなると、どうしても「毎日やらなければならないこと」がいくつか出てきます。例えば、残高の記録やチャートの確認です。非常にメンドクサイですが絶対に必要です。
そして、仕組みさえ作ってしまえばそんなに大変なことでもありません。基本的な作業は、慣れれば 1日5分程度で終わります。
① 残高の記録
入力するのは背景が白い列です。グレーの列は、自動的に算出される項目です。
- 日付と純資産残高を入力
- 投資口座への入出金を行った場合に入力。必要に応じて理由をメモ
- 現金残高を入力
- ユニットとリスクの記録をつけておく(翌日の計算のため)
※ 4は関数で表示されるがそのままでは記録として残らないため「値に直す」作業を行う。※ 画像をクリックすると別タブで大きい画像が表示されます。
ポジションがなくても「残高の記録」は毎日行います。筆者は朝の時点の残高を記録するようにしています。
② チャートの確認
ポジションの有無に関わらずチャートの確認は毎日必ず行います。当然ですね。ポジションがあるときは保有ポジションのチェックと調整。ポジションがないとしてもチャートの確認を行います。
エントリー
リスクを管理する上でもっとも重要なのはエントリーです。どれくらいの資金を投下するのか、どの程度のリスクで収めるのか。すべてエントリーの瞬間に決めている必要があります。
ここでは以下の手順について解説していきます。
- シグナルの確認
- リスクとユニットサイズの確認
- エントリー
- 記録
- ロスカットの逆指値注文
- ピラミッティングの逆指値注文
① シグナルの確認
すべてはトレードのシグナルから始まります。
まず、あなたの手法のシグナルが点灯したことを確認します。
② リスクとユニットサイズの確認
エントリーしても問題ないか、以下の項目を確認します。
- すべてのポジションの合計リスク
- 買いと売り、それぞれの合計リスク
- 銘柄ごとのユニット・サイズ(最小取引単位に満たない場合は赤く表示される)
- 銘柄ごとのリスクと保有ポジションの有無
※ このシートに入力が必要なセルはありません。すべて自動で算出・取得されます。※ クリックすると別タブで大きい画像が表示されます。
③ エントリー
確認したユニットサイズでエントリーします。
④ 記録
エントリーと同時に記録をつけます。筆者はその場で記録をつけてしまうのがもっとも効率が良いと考えています。
「1→2→3」の順に入力する
- 手入力する基本的な情報
- ③で入力するATRを元に算出されるエリア
この情報をもとに、ロスカットやピラミッティングの逆指値注文を出す - 半自動で入力するATRとN(ユニット)の情報
関数を値に直す(そのままにしておくと資金やATRの変更に応じて値が変わっていってしまう)
⑤ ロスカットの逆指値注文
シート「銘柄とリスクの管理」「トレードの記録」に「決済SO(Exit SO)」と表記されている価格で、必ずロスカットの逆指値を設置します。
「いつ大暴落が起きるか」が誰にも分からないのが相場です。このロスカットが、あなたの "命綱" になります。
⑥ ピラミッティングの逆指値注文
シート「銘柄とリスクの管理」や「トレードの記録」に「増し玉 SO(Pyram. SO)」と表記されている価格です。
これは、その人のトレードルールによりますが、逆指値のピラミッティングを行う場合はこのタイミングで注文します。
ポジションの監視
決済するまで間、保有ポジションの監視を行います。少しでも損を小さく、利益を大きくするために細心の注意を払います。
ピラミッティングの判断
ピラミッティングは、トレードの成績を伸ばす絶好のチャンスです。良い地合いの中で追加エントリーすることで、良い結果が得られる可能性が高くなります。しかし、ピラミッティングのシグナルが出たからといって、何も考えずにエントリーして良いわけではありません。通常のエントリーと同じく、
- 銘柄ごと、買いポジション、売りポジションごとの、リスクの確認
- ピラミッティングする、サイズの確認
などの確認が必要です。
また、ピラミッティングの逆指値を設置した場合は、適宜、その価格の調整が必要です。
損切りライン(SO)の調整
損切りライン(SO)は、トレードの〝命綱〟です。少しでもリスクを減らすために、適宜、調整を行います。トレードルールによっては、プラス方向の値動きに沿って損切りラインも追随する「トレイリングストップ」を使うこともあります。
利確ラインの調整
利益を大きく伸ばすために、利確ラインの調整も行います。損切りはノイズに引っかからないようにすれば良い〝だけ〟であるのに対して、利益はどこまで伸びるのかを予測することが困難です。安易な利確はせずに、利益を減らさないようにするために、
- 最低限の利益を確保しながらもちょっとしたノイズに引っかからない逆指値を設置しておく
- しっかり伸ばすための利確のルールを持っておく
などの工夫が求められます。
決済
決済の処理は非常にシンプルです。利確や損切りの目安をつけておき、そこに達したら決済して記録をつけるだけです。
① 利確、もしくは損切り
「利確」「損切り」のいずれかの基準を満たしシグナルが点灯したのを確認して決済を行います。また手法によっては、事前に設置しておいた逆指値注文が実行されます。
② 記録
決済したと同時に、記録をつけます。記録をつけた情報は、シート「銘柄とリスクの管理」や「資金の管理と分析」などに反映されます。
1~3と「備考」は手入力。その他の値は関数によって算出されます。
※ 一連の記録が終わったらすべて関数から値に直すことをオススメします。
定期的な調整
最後に「手法の調整」について解説します。定期的に調整を重ねていくことで、あなたのトレードはより堅固になっていきます。
運用資金の調整
あなたが決めた一定の期間(年、四半期、月)ごとに、「資金の追加」「利益の加算」などの、アカウントの調整を行います。これは複利の期間に関する調整で「この点を厳密に行うか否か」によって運用結果が想像以上に異なります。
目標利益の更新
「目標を達成できたかどうか」「次の目標はいくらか」など、目標を意識することで結果は少しずつ変わっていきます。目標利益を定めて定期的に見直すことをオススメします。
分析とルールの評価
分析とルールの評価は逐一行うのが良いですが、いつも見ていられるわけではありません。最低でも半年に一回は見直したいところです。
ルールの評価はシート「資金の管理と分析」や「グラフ」で行うことができます。分析結果が自動で算出されるので、多くの手間を削減できていると思います。
ルールの見直しと変更
トレードルールは、あまり頻繁に変更するものではありません。短期間の結果で、その手法を正確に判断することはできないからです(正確に判断するにはトレード回数が重要)。ルールの見直しは「複利の期間」と同じ間隔くらいで行うのが良いと思います。
どういう基準で見直しを行えば良いかは以下の記事が参考になると思います。
まとめ
いかがだったでしょうか?
この記事を書こうと思い立って書き始めたのが5月5日。このまとめを書いている今が6月4日。なんとなんと、1ヶ月も経ってしまいました。良くも悪くも、随分とこの記事には力を入れてしまいました。。。
さて、 この記事の至るところに書きましたが、
- 記録をつける
- 資金やリスクの管理をする
- 分析してトレードルールのバージョンアップを行う
これらが投資で〝勝ち続ける〟上でもっとも重要であると考えています。〝百戦錬磨とも思える手法〟が、これらを怠るだけで〝破産まっしぐら〟になってしまう。そんなことが十分にあり得ます。
この記事を通して、今まさにこの記事を読んでいる "あなた" のトレードが、少しでも向上することを願っています。
資金管理の検証用シート
- 定率(複利)、定額(単利)、定率の進化系
- ランダム運用(チグハグ運用)
- 一定期間(回数)の複利運用
- マーチンゲール、逆マーチン
記事で使用した「資金管理の検証用シート」をご提供します。資金管理のシミュレーションを行うことができます。
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めちゃくちゃな料金をいただく気はまったくありません。無料だと、
チョロっと見て「また今度やるか」となって忘れ去られる
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タカハシ / 8年目の兼業トレーダー
元・日本料理の板前。現在は、投資やプログラミング、動画コンテンツの撮影・制作・編集などを。更新のお知らせは、各SNSやLINEで。LINEだと1対1でお話することもできます!
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