どんな記事
株式投資やFXにおいて、複利の威力は絶大です。しかし、複利には巧妙な罠がひそんでいます。
一見、公平・有利な条件にみえても、「トレードしていたら、いつの間にか資産が減っていた」なんてことが往々にしてあります。複利での運用において注意すべき点を解説します。
公平なゲーム
次のようなゲームがあったら、あなたはやるだろうか?
トランプが10枚ある。ハートが5枚、スペードが5枚。シャッフルして順番に引いていき、ハートがでたら勝ち、スペードがでたら負けとする。トランプ10枚をすべて引き終わったらゲームは終了である。
元金は10万円。勝ったら50%増えて、負けたら50%減る。
いたって公平なゲームですよね。最初、勝ったら15万円になって、負けたら5万円になる。例えば、1回目を負けてしまって5万円になったら、2回目は5万円の50%。勝てば7万5千円になり、負ければ2万5千円になる。
勝ち負けのカードの枚数は同じなので、50%のリターンが5回で、50%のロスが5回ですね。どうでしょう、このゲームに不公平さを感じる人は少ないんじゃないでしょうか。物足りない人は多いかもしれないけど。
ただ、このゲームは公平だけどメリットもないので、あんまりやる意味を感じないかもしれませんね。
有利なゲーム
じゃあ、次のようなゲームならどうでしょう。
基本はそのままで、一部だけルールを変えてみます。
ゲーム①
「勝:50%増える、負:40%減る」としたもの。※1
ゲーム②
「トランプ10枚中8枚引いた段階で、勝っていたらそこでゲーム終了しても良い」としたもの。※2
※1.回数は10回のまま。
※2.勝ち: 50%、負け: 50%のまま。
こうなってくると結構有利ですよね。だって、ゲーム①は全10回のうち5回は50%のリターンで、残りの5回は40%のロスで済むんです。ゲーム②も、勝っても負けても50%のままだけど、8回目が終わって勝ってたら、そこでゲーム終了でしちゃっていいんです。けっこう破格の条件だと思います。
どうでしょう、この条件ならメリットを感じる人が増えるんじゃないでしょうか。
複利のようで複利じゃない
さて、ゲームの結果はどうなるでしょうか。
先に結論をいっちゃうと、実は、どのゲームも最終的には全部負けちゃいます。
やってみようかなと思った方とかメリットを感じた方は、残念だけど、複利の罠にはまっちゃってます。
ゲームの検証
最初のゲーム | ゲーム① | ゲーム② | |||
---|---|---|---|---|---|
元金 | 100,000 | 元金 | 100,000 | 元金 | 100,000 |
win♥ | 150,000 | lose♠ | 60,000 | win♥ | 150,000 |
lose♠ | 75,000 | lose♠ | 36,000 | win♥ | 225,000 |
win♥ | 112,500 | win♥ | 54,000 | lose♠ | 112,500 |
lose♠ | 56,250 | win♥ | 81,000 | win♥ | 168,750 |
lose♠ | 28,125 | win♥ | 121,500 | lose♠ | 84,375 |
win♥ | 42,188 | lose♠ | 72,900 | lose♠ | 42,188 |
win♥ | 63,282 | win♥ | 109,350 | win♥ | 63,282 |
lose♠ | 31,642 | win♥ | 164,025 | win♥ | 94,923 |
win♥ | 47,463 | lose♠ | 98,415 | ||
lose♠ | 23,732 | lose♠ | 59,049 |
※ 小数点以下は四捨五入
どうでしょう。見事に全部損してますね。ゲーム②は8回目までに5回勝ったことにしています。それでも負けちゃうんです。ここまで読んでくださった方は、それぞれ色々な考えの上で検証結果をご覧になったと思います。この結果って、「複利のことは知らなかったけどなんとなく疑ってかかってた」みたいな方にとっても、予想以上に悪い結果なんじゃないかなと思います。
さて、ここまでのゲームはちょっと極端な損益ですけど、5%でも10%でも良いです、ちょっと投資に置き換えて考えてみてください。
勝率は50%です。リスクリワード比は5:4なので、1.25倍。こういう投資があったら、これ、勝てないんです。
年間で50%勝てる年もあれば、50%負ける年もある。それが8年で5回勝って、3回負けたんだよなーっていう人、その投資は勝てないんです。
これって、そういうことなんです。
複利で失敗しないために
じゃあ、なんでこんなことになるんでしょうね。一見、条件は同じ感じに見えるんですけどね。
そういう方は、次のように考えてみるとわかりやすいかもしれません。
勝ちと負けの条件が公平なら、1回負けて1回勝ったら、元の数字に戻らなければならない。
10 * 0.5 = 5 (50%の損失)
5 * 1.5 = 7.5 (50%の利益)
5 * 2 = 10
つまり、勝ち50%と負け50%は全然公平じゃないんですね。「半分」に対するのは「倍」です。2分の1に対するなら、2を掛けないといけないんです。そうでないと、公平じゃない。同じ50%でも、資金が減るときの50%と、資金が増える時の50%は全然インパクトが違うんです。
複利で運用していくうえで、注意点が2つあります。
1. 同じパーセンテージでも勝ちと負けでは全然違う
2. 複利で運用するなら、その間、できる限り損失があってはならない
できる限りというか、複利で運用するなら損失はダメです。複利は、基準の期間(年ごと、月ごとなど)が短ければ短いほど、その効果を大きく発揮します。だけど、基準の期間を短くすればするほど、マイナスの期間がでてくる可能性が高くなります。
例えば1年なら1年。年区切りで考えていけば、十中八九、利益で終えることができるというとトレードルールをつくる。そして、複利で運用していく。こういうことが必要になる。
もしくは、年区切りで破産の確率をだすのも有効だと思う。
とにかく、こういうことが必要。こういうことをしないと、利益がでているつもりでいたけど、なんか気がついたらトータルでマイナスに――なんてことが起きちゃうことが往々にしてあるんです。
それって、複利で運用している「つもり」なだけで、全然複利じゃないんです。
ぜひ、日々の運用の中で、この点に注意していただけたらと思います。
タカハシ / 8年目の兼業トレーダー
元・日本料理の板前。現在は、投資やプログラミング、動画コンテンツの撮影・制作・編集などを。更新のお知らせは、各SNSやLINEで。LINEだと1対1でお話することもできます!
- 記事をシェア