投資本を読む:計量アクティブ運用のすべて その理論と実践

Posted on July 20th, 2021Updated on July 20th, 2021
投資本を読む:計量アクティブ運用のすべて その理論と実践

どんな記事

book all of active investment

この書籍は、ファンドや投資信託などで採用される「計量アクティブ運用」についてまとめられたものです。

先日、日本取引所グループ主催のデータ分析コンペで受賞されたUKI(@blog_uki)さんが以前紹介されていました。体系的かつ濃密にまとめられている書籍ですが、さらに、筆者が今後活用していきたいと考えている点をまとめています。

ツイートにあるように、amazonで確認すると中古の非常に高価なものしか買うことができません。自分がどうやって入手したかは忘れてしまいました。上記のツイートを見て、すぐに購入したと思います。

この本が良すぎて、この記事を執筆しながら他のオススメされている書籍もすべて購入してしまいました。

ファイナンス理論全史amazon
経済・ファイナンスデータの計量時系列分析amazon
データ解析のための統計モデリング入門amazon
ゼロから作るDeep Learningamazon

順次、このブログでもまとめていきたいと考えています。

アクティブ運用とは

さて、投資信託(ファンド)の運用方針には「パッシブ運用」「アクティブ運用」の2種類あります。

パッシブ運用とは、例えば「eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)」のような市場平均に連動することを目指す運用です。米国株式のような長期的に安定成長が見込める市場なら、こういう運用が最適です。筆者自身もS&P500の積立をしていますが、これはパッシブ運用を活用していると言えます。

それに対するのが「アクティブ運用」です。

アクティブ運用は、市場全体から凸凹を探し出して平均以上の利益を狙う運用方針です。「平均よりも上がりそうな銘柄を買う」みたいなことをするイメージです。

書籍の構成

この書籍は以下のような章立てで、体系的に「計量アクティブ運用」について解説してくれています。

第1章 アクティブ運用のフレームワーク・・・全体的な考え方
第2章 リスク・モデル・・・ファイナンス理論の基礎
第3章 株式評価とバリュエーション・・・一般的な株式評価からアルファの算出
第4章 債券評価・・・イールドカーブや社債評価からアルファの算出
第5章 アルファの予測・・・投資情報からアルファを予測する考え方
第6章 アルファの発掘と予測の賞味期限・・・アルファの発掘方法
第7章 ポートフォリオ構築と取引コスト・・・実務的な内容
第8章 パフォーマンス分析・・・正確なリターンの計測、スキルと運の識別
第9章 キャパシティ・・・流動性、運用能力、コストから導く運用規模

最初から最後まで非常に有意義な情報ばかりで、終始ワクワクしながら読み進めました。この書籍を読んで、こうして記事にまとめることで、かなり理解も深まったと思います。投資関連の数式にも慣れてきました。

アクティブ・マネージャーが賭ける対象

まず、投資対象のリターンには以下の要素が含まれていると考えます。

名称解説
無リスクのリターンタイム・プレミアム金利変動などを指す
市場全体との連動によるリターンリスク・プレミアムベンチマーク(S&P500等)の長期的なリターン
市場全体のブレによるリターンエクセプショナル・ベンチマーク・リターンベンチマークの一時的な押し目等によるリターン
1~3以外のリターンアルファその銘柄固有のリターン

このうちのアクティブ・マネージャーは③と④に賭けます。

③は上記の他に「短期的なベータの調整部分(マーケット・タイミング部分)」、④は「レジデュアル・リターン」「銘柄選択を行う部分(レジデュアル部分)」(residual: 残存・残留)と表現されています。

アクティブ運用に関する7つの特徴

アクティブ運用に関する「本質的な考え方」や「注意点」をまとめた、7つのアイデア(洞察)が紹介されています。

洞察1: アクティブ運用とは予測である
洞察2: 情報レシオが付加価値を決める
洞察3: 情報レシオはスキルとブレスで決まる
洞察4: アルファはスキルとボラティリティとスコアからなる
洞察5: データ・マイニングの罠を避けろ
洞察6: スキルと運の区別は難しい
洞察7: 情報伝達係数を考慮せよ

洞察2: 情報レシオが付加価値を決める

付加価値とは、アクティブ・リスクに見合っただけのリターンを獲得できているかをみる指標です。

付加価値は、以下のように、期待されるアクティブ・リターンからリスク回避度で調整されたアクティブ・リスクを差し引いたものと定義されています。

※ 用語が入り乱れていますが、筆者は「アクティブ・リスク=レジデュアル・リスク」「アクティブ・リターン=レジデュアル・リターン」として読み進めています。

VA=αλω2VA = \alpha - \lambda \cdot \omega^2

VA: 付加価値(Value Added)\scriptsize{ \text{VA: 付加価値(Value Added)} }
α: レジデュアル・リターン\scriptsize{ \alpha \text{: レジデュアル・リターン} }
λ: レジデュアル・リスク回避度\scriptsize{ \lambda \text{: レジデュアル・リスク回避度} }
ω: レジデュアル・リスク\scriptsize{ \omega \text{: レジデュアル・リスク} }

一方で、情報レシオはアクティブ・マネージャーのアクティブ・リスクに対するアクティブ・リターンの比率です。

IR=αωIR = \dfrac{\alpha}{\omega}

IR: 情報レシオ(Information Ratio)\scriptsize{ \text{IR: 情報レシオ(Information Ratio)} }
α: レジデュアル・リターン\scriptsize{ \alpha \text{: レジデュアル・リターン} }
ω: レジデュアル・リスク\scriptsize{ \omega \text{: レジデュアル・リスク} }

色々と式や条件を展開していくと、情報レシオが付加価値を決定するということが証明されます。

洞察3: 情報レシオはスキルとブレスで決まる

アクティブ・リスク対するリターンとして算出される「付加価値」は、「情報レシオ」によって決定されます。

さらに、その「情報レシオ」はスキルとブレスによって決まり、以下のように表現することができます。

名称解説
スキル情報係数IC: Information Coefficientアクティブ・マネージャーのスキルの尺度
ブレスBR: Breadth①取引数、②銘柄数、③シグナル数などの「数」を表す

IR=ICBRIR = IC \cdot \sqrt{BR}

IR: 情報レシオ(Information Ratio)\scriptsize{ \text{IR: 情報レシオ(Information Ratio)} }
IC: スキル(情報係数|IC: Information Coefficient)\scriptsize{ \text{IC: スキル(情報係数|IC: Information Coefficient)} }
BR: ブレス(Breadth)\scriptsize{ \text{BR: ブレス(Breadth)} }

また、スキル(IC)は、

  • 実現アクティブ・リターンと期待アクティブ・リターンの相関
  • 実現アクティブ・リターンとシグナルの相関

として、算出することができます。

IC=Corr{θ,g}=Cov{θ,g}Std{θ}Std{g}IC = Corr\{ \theta ,g \} = \dfrac{ Cov\{ \theta ,g \} }{ Std\{ \theta \} \cdot Std\{ g \} }

IR: 情報レシオ(Information Ratio)\scriptsize{ \text{IR: 情報レシオ(Information Ratio)} }
Corr: 相関係数(Correlation)\scriptsize{ \text{Corr: 相関係数(Correlation)} }
θ: 実現レジデュアル・リターン\scriptsize{ \theta \text{: 実現レジデュアル・リターン} }
g: シグナル\scriptsize{ \text{g: シグナル} }

書籍では、ルーレットを例にスキルとブレスについて解説していますが、これは「期待値と取引回数の関係に似ている」と思います。

高い情報レシオを得るには

  • ある程度のスキルをもって、できる限り頻繁に、かつ、より多くの銘柄に賭けを行う
  • 国際分散投資を行う場合は、国、通貨、個別株式のそれぞれに賭けを行うことでブレスを増加させる
  • ブレスは資産だけでなくシグナルにも適用されるため、複数のシグナルを組み合わせる

スキル(IC:情報係数)を向上するよりも、スキルを保ちながら横展開する方が容易であるという点がポイントです。

洞察4: アルファはスキルとボラティリティ(リスク)とスコアからなる

アナリストの収益予測、ブローカーの売り/買い推奨、経済成長率やインフレ率等の生の投資情報(シグナル)には、リターンの予測に役立つさまざまな情報が含まれている。こうした生のデータをアルファ(期待レジデュアル・リターン)に変換するためには以下の数式を用いる。

α=ICωS\alpha = IC \cdot \omega \cdot S

S: スコア\scriptsize{ \text{S: スコア} }

ωはアクティブ・リスクですが、リターンの標準偏差で算出されるためボラティリティを含みます。これによって、項目では「ボラティリティ」と表現されています。スコアは、シグナルを比較しやすく加工(標準化、正規化)したものです。

IC ω S にそれぞれの計算式を当てはめると、次のようになります。

α=Corr{θ,g}STD{θ}gE{g}STD{g}\alpha = Corr \{ \theta ,g\} \cdot STD\{ \theta \} \cdot \bigg⟮ \dfrac{ g- E\{ g \} }{ STD\{ g \} } \bigg⟯

※ 情報係数(IC、スキル)は実現アクティブ・リターンとシグナルの相関、アクティブ・リスクはアクティブ・リターンの標準偏差、スコアはシグナルを正規化(分子がシグナルとシグナルの平均の差、分母はシグナルの標準偏差)として算出します。

「アルファ予測のフレームワーク」で解説されていますが、アルファ(すなわち期待アクティブ・リターン)はこれらの独立した3つの数値で構成されています。

単一銘柄の自動売買にこの考え(洞察2~4)を応用することにあまり意味は感じませんが、複数の銘柄に分散することにおいては、すぐにでも採用したい考え方だと感じています。

リスクの尺度について

この手の本で、リスクというと「リターンの標準偏差」が用いられます。それに対してATR(直近の平均的な値動き)をリスクと捉える考え方があります。

「リターンの標準偏差」には一日の最大変動幅は含まれておらず、終値ベースの考えだと思います。この点から、ATRを元にした方がより具体的なリスクになると個人的には考えています。「標準偏差が満たす諸性質(リスクの尺度に必要な性質)」という記述がありましたが、ATRも同じように満たすのではないでしょうか。

一方で、市場全体を比較するアクティブ運用においては、全銘柄でATRを計測するのは現実的ではないし、そこまでやる必要もないと思います。

「目的に合う尺度を使うことが重要なのかな」

というのが今のところの結論です。

分散投資のリスク

以下の一文が、分散投資の大きなメリットを表しています。

ポートフォリオのリターンは、各銘柄のリターンをそれぞれへの投資比率で加重平均したものとなる。一方、ポートフォリオのリスクは銘柄間のリターンの相関によって各銘柄の加重平均とはならず、単純な加重平均よりも小さくなる

具体的には、次のような違いがあります。

各銘柄の分散が等しく、銘柄感の相関はなく、等ウェイトで構成されるポートフォリオの場合、投資対象数Nが10倍になるとそのリスクは1/√10倍に減少する。

個人的に、もっとも衝撃を受けました。以前から「20銘柄以上分散投資するのがポイント」という話は何度か聞いたことはありましたが、実際に数式として認識したのは初めてで、分散投資の有効性を強く再確認しました。

「タートルズの分散投資は、やっぱりこのあたりを強く意識しているんだろうなあ」と、改めて思い、

  • 分散投資の期間を見直す
  • タートルズの分散投資にアルファを取り入れる?

等のアップデートをしていきたいと考えています。

Python版:2006年に書籍で「勝てる」とされた手法の「その後」をバックテスト

6つの手法を27銘柄24年にわたってバックテストします。 ・2006年当時有効だった手法は健在なのか ・相関を元にしたポジションの制限は有効なのか ・増し玉は有効なのか

backtesting/testing-diversified-investment

Python版:2006年に書籍で「勝てる」とされた手法の「その後」をバックテスト

アルファ予測のフレームワーク

これは、「洞察4: アルファはスキルとボラティリティとスコアからなる」を掘り下げた内容です。

前述の通り、アルファは「情報係数」「スコア」「レジデュアル・リスク」から算出されます。

α=ICωS\alpha = IC \cdot \omega \cdot S

これらの数値はすべて独立した意味を持ち、

  1. 正規化されたシグナル(スコア)があり、
  2. 予測能力を表す「情報係数」を加味し、
  3. レジデュアル・リスクによってスケールを調整したもの

として、アルファが算出されます。

クロス・セクション分析とタイム・シリーズ(時系列)分析

クロス・セクション分析市場全体や業種など、特定のグループに対して相対的に分析する
タイム・シリーズ分析過去のデータから求める方法

「アクティブ・リスクが大きくなるほど投資指標の数値幅が大きくなる」という特性があれば、どちらも同じく有効であるとしています。

ただし、実務上はタイム・シリーズのデータの数や質を確保するのが容易ではないことが多いため、クロス・セクションによる分析が好まれるそうです。

EAを代表とする自動売買はタイム・シリーズ分析を基本としていますが、ここにも大きな違いがあります。目的に応じて使い分けるのが良さそうですね。

リスクと相関係数の予測

P. 131に次のような記述がありました。

 相関係数が過去10年で0.7の株式Aと株式Bについて予測を行うとする。これらの期待リターンを当てる有力な情報があって、株式Aはプラス、株式Bはマイナスに動くという予測が行われるとする。

 この場合、はたして相関係数の予測を負の数字に置き換えるべきだろうか。

 結論をいうと、必ずしも置き換える必要はない。相関係数は多くデータ(サンプル)から算出される数字で、そのサンプルの平均的な姿を示すものである。つまり、1つのリターンの予測は、リスクや相関係数を置き換えるほどの効力は本来ない。

(中略)

 その変化がなんらかの大きな変化、構造の変化である場合には、リスクや相関係数を予測によって変える意味があるだろう。

これまで、タートルズのロジックで用いる相関係数を20日や60日で算出していましたが、これを読んでもっと長期の相関係数でよかったんじゃないかと考えを改めています。いつか、修正したロジックで検証をやり直したいと思います。

Python版:2006年に書籍で「勝てる」とされた手法の「その後」をバックテスト

6つの手法を27銘柄24年にわたってバックテストします。 ・2006年当時有効だった手法は健在なのか ・相関を元にしたポジションの制限は有効なのか ・増し玉は有効なのか

backtesting/testing-diversified-investment

Python版:2006年に書籍で「勝てる」とされた手法の「その後」をバックテスト

アルファの発掘

アルファの発掘について、実例を交えながらやり方や注意点が掲載されています。当然ですが、有効なロジックが掲載されているわけではないので、以下を元に実践してみる必要があります。

情報データの区別

  • 生データか加工データか
  • 人間の判断が含まれているかどうか
  • 順序を表すものか、数量を表すものか
  • ヒストリカル・データか、現時点での予測データか

情報分析のプロセス

ステップ1:情報に基づきポートフォリオを構築する
ステップ2:そのポートフォリオのパフォーマンスを評価する

これは「バックテストを回してみる」と全く一緒だと思われます。

パフォーマンス評価は以下の着眼点が提示されています。

  1. リターンを図示する方法
  2. t検定を使う方法
  3. 情報レシオ(IR)を使う方法
  4. 情報係数(IC)を使う方法

それぞれ、以下の計算式が掲載されています。

t統計量=αSE(α)\text{t統計量} = \dfrac{ \alpha }{ SE( \alpha ) }

SE(α): アルファの標準誤差\scriptsize{ SE( \alpha )\text{: アルファの標準誤差} }

 t統計量と情報レシオは関係が深い。t統計量はアルファのその標準誤差に対する日である。一方、情報レシオは年率アルファの年率リスク(標準偏差)に対する比である。もしT年間にわたってリターンを観察していれば、その情報レシオはおおよそt検定量を√Tで割った値になる。そして、この関係はサンプル数が多くなるほどより確かなものになる。

IR t統計量 T=1TαSE(α)IR \approx \dfrac{ \text{ t統計量 } }{ \sqrt{ T } } = \dfrac{ 1 }{ \sqrt{ T } } \cdot \dfrac{ \alpha }{ SE( \alpha ) }

プロセス自体は、バックテストのそれと大きな違いがありませんが、パフォーマンス評価のバリエーションが新鮮でした。できるところから早速試してみたいと思います。

まとめ

この書籍への感じ方は人それぞれだと思いますが筆者はひじょ~~~~にワクワクしました。

いずれもすぐに利益につながるような知識ではないですが、こんなにも有効そうな知識を一気に仕入れる機会はそう多くはないと思います。

また、この書籍を通じて、アクティブ運用の理解がかなり深まりました。

これ以上の理解には、座学ではなく、

  • 検証する
  • ポートフォリオを組んでみる

等といった実践が必要になると思います。

筆者は株式でポートフォリオを組むようなステージに到達していないので本格的な実践はまだ先になりそうですが、まずはこの記事で取り上げたような「現状でも活かせそうなもの」をどんどん試していきたいと思います。

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yuya takahashi

タカハシ / 9年目の兼業トレーダー

投資やプログラミング、動画コンテンツの撮影・制作・編集などが得意。元・日本料理の板前。更新のお知らせは、FacebookやLINE、Pinterest、Twitter、メールで行っています。LINEではご質問にもお答えしています。 このブログと筆者について

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