どんな記事
この記事では、「少なくとも20年間は実際に〝勝てた〟であろう投資のやり方」を知ることができます。
- 2006年に書籍で有効とされていた手法
- その後の約10年の値動きで検証する
- もし良い結果がでるなら、この先の10年も通用するかもしれない
というのが、この記事のテーマです!
Twitterでも紹介していただいています
追記
2021年3月6日
同様のテストをPythonでも行いました。この記事よりも書籍の内容に近い方法でテストを行い、この記事よりも悪い結果が出ています。Python版の記事
タートルズ流 投資の魔術 からの引用
もととなる手法は、投資本「伝説のトレーダー集団 タートルズ流投資の魔術」に掲載されていたものです。この本では、6つの手法を以下の条件でバックテストしています。(情報が不十分でわからない点も多いですが・・・)
この章で述べるテストは、市場の一般的ボートフォリオと一般的資金管理アルゴリズムを用い、システムのルールが変わることによる影響がテスト結果の差異にあらわれることを検証している。以下はそのテストに使われた変数だ。
● 市場
オーストラリアドル、英ポンド、とうもろこし、ココア、カナダドル、原油、綿、ユーロ、ユーロダラー、飼養牛、金、銅、灯油、無鉛ガソリン、日本円、コーヒー、牛、豚、メキシコペソ、天然ガス、大豆、砂糖、スイスフラン、銀、財務省中期債権、同長期債権、小麦。以上がテストを行うポートフォリオに含まれる市場である。
これらの市場は流動性の高い(出来高の多い)アメリカ市場から選ばれた。● 資金管理
ここで使う資金管理アルゴリズムはタートルたちが使用したのと同じだが、攻撃性を半分にした数値を用いてある。1-ATRを取引資本の1パーセントとするかわりに0.5パーセントとしたので、テスト向けの枚数を出すために、資金の0.5パーセントを、特定の取引に注文が出される時点でドル換算した市場のATRで割った。
10年前(1996年1月~2006年11月)の検証結果
本に掲載されている検証結果は以下です。
1 | ATR CBO | 2 | ボリンジャーCBO | 3 | ドンチアン・トレンド |
4 | 時限付ドンチアン | 5 | ダブル移動平均 | 6 | トリプル移動平均 |
CAGR % MARレシオ シャープレシオ 取引数 勝率 最大DD % DD期間 月 1 45.9 1.15 1.27 216 43.1 40 8.3 2 49.2 1.44 1.47 136 53.7 34.1 7.8 3 27.4 0.75 0.94 1901 38.7 38.7 27.6 4 57.1 1.31 1.34 773 59.1 43.6 12.1 5 49.1 1.04 1.34 222 36.9 47.2 8.3 6 41.2 0.97 1.21 186 41.9 42.3 8.5
CAGR (%) というのは、以前このブログでも紹介した「年平均成長率」のことです。簡単に言うと、「複利で年利何パーセントだったの?」ということがわかります。
書籍に「リスクリワード比」が掲載されていれば、TradingViewのテスト結果と比較できたのですが、ありませんでした。残念。
参考記事: 攻めのリスク管理
その後(2005年~2017年)の検証結果
次に、あらたに TradingView でバックテストをした結果です。各バックテストの詳細は過去の記事をご覧ください。(バックテストの名称が各記事へのリンクになっています)
取引数 | 勝数 | 勝率 | RR比 | 破産の確率 | 期待値 | 利益見込み | |
---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | 383 | 113 | 29.50% | 4.089 | 0.01% | 0.501 | 192.045 |
2 | 159 | 73 | 45.91% | 2.95 | 0.00% | 0.814 | 129.372 |
3 | 2,043 | 773 | 37.84% | 2.199 | 0.01% | 0.21 | 429.875 |
4 | 848 | 447 | 52.71% | 1.237 | 0.00% | 0.179 | 152.116 |
5 | 315 | 91 | 28.89% | 3.361 | 0.07% | 0.26 | 81.835 |
6 | 182 | 76 | 41.76% | 2.044 | 0.00% | 0.271 | 49.311 |
このバックテストは、以下の条件で行ったものです。
「異なる銘柄でも勝てるものか」「市場が変わっても勝てるものか」あたりを確認したいと考えて、あえて異なる銘柄でバックテストしています。
期間
- 2005年1月1日 ~ 2017年12月31日(12年間)
資金管理
- 単利
銘柄
為替 USDJPY、EURJPY、GBPJPY、CHFJPY、CADJPY 株価指数 NKY日経225、DJI NYダウ、DAXドイツ、UKXイギリスFTSE、HSI香港ハンセン 日本株 6098リクルート、4452花王、5711三菱マテリアル、7201日産、9984ソフトバンクグループ 米株 AAPLアップル、AXPアメリカン・エクスプレス、BAボーイング、JNJジョンソン・エンド・ジョンソン、MCDマクドナルド 海外商品 金、白金、原油、コーン、大豆
結果:すべての手法で「勝てた」
まずは、すべての手法で「その後の約10年の値動き」でも勝てたことを確認しましょう。
破産の確率 | 期待値 | 利益見込み | |
---|---|---|---|
ATR CBO | 0.01% | 0.501 | 192.045 |
ボリンジャーCBO | 0.00% | 0.814 | 129.372 |
ドンチアン・トレンド | 0.01% | 0.21 | 429.875 |
時限付ドンチアン | 0.00% | 0.179 | 152.116 |
ダブル移動平均線 | 0.07% | 0.26 | 81.835 |
トリプル移動平均線 | 0.00% | 0.271 | 49.311 |
「破産の確率」が問題ない水準で、なおかつ「期待値」もプラス。その後(本に掲載された後の約10年)の値動きでも〝勝てた〟手法であるということが分かります。「期待値」がプラスなので、「期待値 ✕ 取引回数」で算出される「利益見込み」もプラスです。
比較する上での「注意点」
ここからは「10年前」と今回検証した「その後」のバックテスト結果を比較していきますが、いくつか注意点があります。
資金管理の有無
- 「10年前」のテストは、資金管理などを(おそらく分散投資も)含めたものである
- 「その後」のテストは TradingView で簡易的に行ったもので、資金管理などが含まれていない
(本に掲載されている)「10年前」のテストには、以下の記述があります。
この章で述べるテストは、市場の一般的ボートフォリオと一般的資金管理アルゴリズムを用い、システムのルールが変わることによる影響がテスト結果の差異にあらわれることを検証している。
「資金管理アルゴリズム」は、おそらく「ATRを用いたサイジング」のことを指していると思われます。なので、取引量の調節がされるバックテストであると考えられます。「分散投資」については、「一般的ポートフォリオ」が何を指しているのかによるのですが、これ以上の記述がないのでわかりません。
とはいえ、「おそらく『勝てる』という結果が大きく変わることはない」と考えています。これは、過去に行ってきたバックテストからくる経験則です。いくつか根拠はありますが、長くなるので今回は割愛します。
そもそも、比較している銘柄が違う
「10年前」のバックテストの対象銘柄 は以下の27銘柄でした。
オーストラリアドル、英ポンド、とうもろこし、ココア、カナダドル、原油、綿、ユーロ、ユーロダラー、飼養牛、金、銅、灯油、無鉛ガソリン、日本円、コーヒー、牛、豚、メキシコペソ、天然ガス、大豆、砂糖、スイスフラン、銀、財務省中期債権、同長期債権、小麦。以上がテストを行うポートフォリオに含まれる市場である。
対して、あらたに行った「その後」のバックテストの対象銘柄は以下の25銘柄です。
為替 USDJPY、EURJPY、GBPJPY、CHFJPY、CADJPY 株価指数 NKY日経225、DJI NYダウ、DAXドイツ、UKXイギリスFTSE、HSI香港ハンセン 日本株 6098リクルート、4452花王、5711三菱マテリアル、7201日産、9984ソフトバンクグループ 米株 AAPLアップル、AXPアメリカン・エクスプレス、BAボーイング、JNJジョンソン・エンド・ジョンソン、MCDマクドナルド 海外商品 金、白金、原油、コーン、大豆
銘柄が違うということは、同じ条件で比較できていないということです。本来は、期間以外の項目をまったく同じ条件にして比較するべきです。一方で、「銘柄が違うのに勝てている」ということは「異なる銘柄群でも勝てる手法である」 とポジティブに捉えることもできます。
いずれにしても、「これらの注意点を知らずに鵜呑みにする」ということが問題になります。注意点を把握して確認していくことで、(本当は理想的な比較が良いですが)一定の成果を得ることができると思います。
微妙な「変化」はある
「変化」というか、微妙な「成果の違い」がありました。
「取引回数」は同じ傾向
以下に、「10年前」と今回検証した「その後」をまとめました。並べて比較すると、以下のようなことがみえてきます。
10年前 | その後 | |
---|---|---|
ATR CBO | 216 | 383 |
ボリンジャーCBO | 136 | 159 |
ドンチアン・トレンド | 1,901 | 2,043 |
時限付ドンチアン | 773 | 848 |
ダブル移動平均 | 222 | 315 |
トリプル移動平均 | 186 | 182 |
- 「取引回数」が同じ傾向 → 手法が再現できている
- 長期・中期・短期の手法の取引回数が大きく変化することはなさそう
- 銘柄数の割に「本掲載」の方が少ない → 分散投資しているかも
「10年前」は27銘柄で「その後」が25銘柄。「10年前」の方が多いのに、すべての手法で取引回数が少ないこと考えると分散投資を含めたバックテストであったと考えられます。
「勝率」はすこし傾向が異なる
10年前 | その後 | |
---|---|---|
ATR CBO | 43.1 | 29.5 |
ボリンジャーCBO | 53.7 | 45.9 |
ドンチアン・トレンド | 38.7 | 37.8 |
時限付ドンチアン | 59.1 | 52.7 |
ダブル移動平均 | 36.9 | 28.9 |
トリプル移動平均 | 41.9 | 41.8 |
「勝率」は、以下のような違いが生じています。
- 「ATR CBO」「ボリンジャーCBO」「ダブル移動平均」の勝率が落ちた
- すべての手法で「10年前」の方が勝率が良い
「2」については、いくつか可能性が考えられます。
- 「10年前」は分散投資されていたものと考えられ、それがプラスに作用した
- テスト期間の違いによって相場の環境が変 わった
そもそも、手法の良し悪しは「勝率」だけで測れるものではなく「リスクリワード比率」とのバランスで決まります。なんとも結論づけられないのが正直なところです。
「収益」を(むりやり)比較してみる
10年前 | その後 | |
---|---|---|
CAGR | 利益見込み | |
ATR CBO | 45.9 | 192.045 |
ボリンジャーCBO | 49.2 | 129.372 |
ドンチアン・トレンド | 27.4 | 429.875 |
時限付ドンチアン | 57.1 | 152.116 |
ダブル移動平均 | 49.1 | 81.835 |
トリプル移動平均 | 41.2 | 40.311 |
投資家がもとめる「収益」について、違う項目でむりやり比較してみます。「CAGR」と「利益見込み」は、表現の仕方は違うものの最終的な「収益」を表している項目です。
- CAGR:年平均成長率 。複利で年利何パーセントだったのか。
- 利益見込み:期待値 ✕ 取引回数 で算出
これを、良いものから並べると、優劣が様変わりしていることが分かります。
10年前
時限付ドンチアン、ボリンジャーCBO、ダブル移動平均、ATR CBO、トリプル移動平均、ドンチアン・トレンド
その後
ドンチアン・トレンド、ATR CBO、時限付ドンチアン、ボリンジャーCBO、ダブル移動平均、トリプル移動平均
さて、なぜこんなにも違いが生じたのでしょうか?
残念ながら、これも「材料不足でわからない」というのが正直なところです。さらに追求していくとしたら、条件をそろえて「『10年前』の期間と銘柄」のバックテストを TradingView で行ってみるしかないでしょう。
「長期で勝つ」ための手法は、これから先も変わらない
ここ数年のバックテストを通しての仮説ですが、「長期的に勝つ」ということを目的とするなら、手法は、これまでもこれから先も、大きく変わらない気がしています。
- 「短期的な値動き」の傾向は、「アルゴの出現」や「市場参加者の増加」などで変わっていると思う
- つまり、「短期的な値動き」に依存する手法は様変わりしやすい
- 「長期的な値動き」の傾向は変わっていないように感じる
- 大きなトレンドを掴むことを徹底すれば勝てる
まとめるなら、こんな感じでしょうか。
流動性のある市場で取引をしていることが前提ですが、長期で取引することで「だまし」にあいづらくなると考えています。いくつか根拠があるのですが、例えば以下のようなものがあげられます。
- ファンドは市場参加者が多いところ(短い時間軸)を狙う
- ファンドといえど、長い時間軸で「だます」のは難しい(資金力がいるし、リスクが大きい)
- 競合が少ない(みんな短期間で儲けたいし、長期間の損失に耐えるとかムリ)
- 短期ではワークしないシンプルなゴールデンクロス(GC)とデットクロス(DC)が長期ではワークする
タートルズを育てたリチャード・デニスさんもこんなことを言っています。
Q.だましの対策は
自分のトレードスタイルに応じて短期でも長期でも良いというのがその秘密だ。大部分のトレンドフォローのシステムは中期のトレンドをとらえるものだ。だから我々にとって最善の戦略は、その疫病のような中期を避けることだと思う。
Richard J. Dennis
一つの手法で30銘柄近い分散投資をする必要があるので、ある程度の資金力や技術、ツールが必要です。簡単な話ではないですが、やってみる価値のある方法だと考えています。(というか、実践しています)
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- タートルズ流 投資の魔術 からの引用
- その後(2005年~2017年)の検証結果
- 結果:すべての手法で「勝てた」
- 比較する上での「注意点」
- 微妙な「変化」はある
- 「長期で勝つ」ための手法は、これから先も変わらない
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